
でも、保険って保障を充実させればさせるほど保険料が高くなるもの。そこで、病気やケガで働けなくなったときのために、ぜひ知っておきたい公的制度があります。それが「傷病手当金」。
場合によっては、この制度だけでカバーできることもあるのです。
今回は傷病手当金についてご説明します。
<目次>
平均月3万円以上の保険料を払っている現実!
生命保険文化センターの調査によると、生命保険(個人年金保険を含む)の世帯加入率は88.7%。
この調査は、2人以上の世帯を対象にしたものなので、実際はもう少し低くなりますが、多くの人が万が一の病気やケガにしっかり備えていることがわかりますね。
でも、高い保険料を支払わなくても、病気やケガによる収入ダウンをカバーしてくれる制度があります。それが「傷病手当金」です。傷病手当金をもらう条件と申請方法について、順を追って説明していきます。
休職したときの生活保障をする「傷病手当金」
「病気やケガで働けなくなったらどうしよう」と不安になったことはありませんか?
特に一家の大黒柱やひとり暮らしの人は「働けない=生活できない」なので、心配が尽きないでしょう。でも、病気やケガに備えるのは医療保険だけではありません。
ところが、こんなに大事な制度なのに、意外にもあまり知られていないのが現実!
「がん患者の就労に関する実態調査」によると、「傷病手当金を知らなかったので利用しなかった」人が39.5%で、「傷病手当金を利用した」人の31.5%を上回っているのです。傷病手当金は申請しないともらえないお金なので、知らないと損をしてしまいますよ。
「傷病手当金」がもらえる4つの条件
傷病手当金は多くの人が利用できる制度ですが、誰でもOKというわけではありません。対象者は次の4つの条件に当てはまる人です。
(1)健康保険協会や健康保険組合の加入者
傷病手当金は、健康保険協会や健康保険組合から支給されるお金です。ですから、健康保険協会や健康保険組合の加入者であることが条件となります。つまり、社会保険に加入している一般的な会社員であればもらえるということ。また、会社員に限らず、契約社員や派遣社員、パート・アルバイトの人でも、会社の健康保険に加入していれば受給できます。
反対に、国民健康保険には傷病手当金の制度はありません。自営業やフリーランスの人、退職した人は、この制度を利用することができません。
(2)仕事と関係ない病気やケガ
仕事や通勤とは関係のない病気やケガで働けない人が対象になります。というのは、仕事や通勤が原因だと、労災保険の給付対象になるからです。
「働けない人」が対象なので、入院していなくても、自宅療養でも給付されます。仕事ができないかどうかは、医師の診断が必要になります。
(3)連続する3日間を含む4日以上の欠勤
病気やケガの療養のため欠勤した日から、連続する3日間を含む4日以上を休む場合、欠勤4日目からが支給対象となります。連続する3日間は「待機3日間」といいます。
待機には、有給休暇、土日・祝日など会社が休みの日もカウントされます。
【支給対象の例】
※印の日が支給開始日
例1)
3日連続欠勤した翌日の12月8日から支給開始になります。
12月5日 | 12月6日 | 12月7日 | 12月8日 | 12月9日 | 12月10日 | 12月11日 | 12月12日 |
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休 | 休 | 休 | ※休 | 休 | 休 | 休 | 休 |
例2)
12日5日~7日と3日連続欠勤していますが、8日に出勤しています。そのため、支給開始となるのは12月9日からです。
12月5日 | 12月6日 | 12月7日 | 12月8日 | 12月9日 | 12月10日 | 12月11日 | 12月12日 |
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休 | 休 | 休 | 出 | ※休 | 休 | 休 | 休 |
例3)
3日連続欠勤しているのは12月8日~10日のため、その翌日の12月11日から支給開始になります。
12月5日 | 12月6日 | 12月7日 | 12月8日 | 12月9日 | 12月10日 | 12月11日 | 12月12日 |
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休 | 休 | 出 | 休 | 休 | 休 | ※休 | 休 |
例4)
3日連続で欠勤していないため、傷病手当金は支給されません。
12月5日 | 12月6日 | 12月7日 | 12月8日 | 12月9日 | 12月10日 | 12月11日 | 12月12日 |
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休 | 休 | 出 | 休 | 休 | 出 | 休 | 休 |
(4)給与の支払いがない
傷病手当金は、基本的に給与が支払われない場合に支給されます。欠勤を有給休暇にしてしまったり、欠勤中も変わらずに給与が支給された場合は、傷病手当金は受け取れません。ただ、給与が支払われた場合でも、通常どおりの金額ではなく、傷病手当金よりも少ないときは差額分を受け取ることができます。
「傷病手当金」の支給金額
傷病手当金の1日当たりの支給金額は、次の計算式によって算出されます。
計算式にある「標準報酬月額」というのは、保険料を算出するために報酬を50等級に区分したもので、4月~6月の給料の平均に照らし合わせて等級を区分し、年に一度見直しされます。
自分がどの等級に当てはまるのかは、加入している健康保険組合に聞くのが確実です。支給金額の目安として、給与の3分の2程度と考えておくといいでしょう。
「傷病手当金」の支給期間
傷病手当金が支給される期間は、原則、支給開始した日から最長1年6ヵ月です。同じ病気やケガによる休職であることが条件です。
傷病手当金の支給開始後に仕事に復帰し、また同じ病気やケガによって休職した場合、復帰期間も1年6ヵ月に含まれるので注意が必要です。
6ヵ月間傷病手当金を受給
↓
3ヵ月間仕事復帰
↓
再び同じ病気やケガで休職
この場合、仕事に復帰した3ヵ月間も1年6ヵ月に含まれるため、傷病手当金が受け取れる残りの期間は3ヵ月になります。
支給開始から1年6ヵ月を超えた場合は、仕事に復帰できなくても傷病手当金は支給されません。
ただ、健康保険組合によっては1年6ヵ月を超えた場合は、6ヵ月や1年など延長給付ができるケースもあります。加入する健康保険組合に確認することをおすすめします。
退職した場合も、次の条件を満たせば引き続き傷病手当金を受け取ることができます。
(1)退職日までの保険加入期間が継続して1年以上あること
(2)退職する前に傷病手当金を受給しており、仕事に復帰できずに退職した場合
気をつけたいのが、傷病手当金を受給しているあいだは失業保険を受給できないことです。また、退職後に働きだした場合、例えパートやアルバイトであっても、傷病手当金の支給は打ち切られます。
一般的には退職したらすぐにハローワークに行って失業保険の受給手続きをしますが、傷病手当金をもらっている場合は、失業保険の延長手続きを行いましょう。失業保険がもらえるのは、原則的に退職した日の翌日から1年間ですが、延長手続きを行うと最長4年間延長できます。また、退職して任意継続被保険者の期間に病気やケガになった場合は、傷病手当金の支給対象にはなりません。
「傷病手当金」は何度も利用できるか?
傷病手当金は、同じ病気やケガの療養で休職した場合、最長1年6ヵ月受給できます。傷病手当金を1年6ヵ月受け取り、その後、仕事に復帰したものの、病気が再発してまた休職した場合は「同じ病気」と見なされ、傷病手当金は支給されません。
ただし、「復帰時は病気が完全に治っていた」と医師が判断したり、前に傷病手当金を受給していたときから長期間たっているときなどは受給できるケースがあります。いずれにしても、医師の診断をもとに健康保険組合が判断します。
一方、ちがう病気やケガで働けなくなった場合は、また傷病手当金を受給することができます。
「傷病手当金」の申請方法
繰り返しになりますが、傷病手当金は申請しないともらえません。申請先は、加入している健康保険組合です。
【申請手続きの流れ】
1.会社に報告・相談する
勤務先に病状を伝え、傷病手当金を申請することを報告します。
傷病手当金の申請書に必要事項を記入します。申請書は、協会けんぽであればWEBサイトからダウンロードできます。
2.医師に記入を依頼する
受診した病院で、申請書の医師による証明欄に記入してもらいます。
傷病手当金を受給するためには「病気やケガの療養のため働けない」という診断が必要になります。このとき、300~500円の手数料がかかります。また、記入してもらうまで2週間ほどかかる場合があるので、事前に確認しましょう。
3.会社に記入してもらう
申請書には、事業主による証明欄があるので会社に提出して記入してもらいます。
傷病手当金を受給するためには「会社を休んでいること」「給与が支払われていないこと」の証明が必要になります。一般的には、会社が記入後に健康保険組合に提出してくれます。
4.傷病手当金の支給審査
提出した書類をもとに審査が行われます。
支給される場合は「支給決定通知書」が、不支給となった場合は「不支給決定通知書」が送られてきます。「支給決定通知書」が届いてまもなく、指定口座に振り込まれるケースが多いようです。申請から支給されるまでの期間は、最初の申請では1ヵ月程度、2回目からは2~3週間程度が目安のようです。
長期療養の場合は1ヵ月ごとの申請がおすすめ
傷病手当金は、経過した時期の分しか申請できません。そのため、1ヵ月程度の休職であれば、復帰してから1度の申請でも構いませんが、長期療養だとそのあいだの収入がなくなってしまうので、1ヵ月ごとに申請するのが一般的な方法です。
<目次>
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